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文化財保存修復研究所 刊行物?資料

第3号 2018-2019(平成30-31)年度

所長あいさつ

澳门永利会平台文化財保存修復研究所は国内にも稀な文化財保存修復と研究?教育を担う大学内の組織として平成26年に開設されました。本書では平成30年から平成31年(澳门永利会平台1年)に行った受託事業、受託研究に加え、教育プログラムや関連プロジェクトについてご報告します。

開設間もない弊所が様々な案件に携わり順調に業績を積むことができましたことは、偏にご所蔵先のご理解、行政、研究者をはじめとする関係各方面のご助力ご指導の賜物であり厚く御礼を申し上げます。

冒頭に述べましたように弊所では大学という教育?研究、地域社会のための組織として修復事業のみに留まらない役割を果たすために大学内の人的、教育的、学術的リソース、そして芸術系という実技のスキルをいかに活用するかを考え続けてきました。それは弊所の存在意義であり、活動を貫く方針でなければならないとも考えています。そうした方針を具現化した事例、また弊所を置いてなし得ない案件も出てきました。

特集で取りあげた豊田市守綱寺障壁画は弊所での修理を経た上で市指定文化財に推薦され環境の整った施設に収蔵されることになり、弊所に寄せられる信頼を励みとすると共に一層の責任を感じる事業となりました。

一方、指定文化財であるか否かは事業、研究を左右しません。地域の歴史と絆の証しである文化資源の再生、活用に関わる活動も重要視しています。

「明星輪寺?絵馬照手姫図」は実技者も関わることで弊所ならではの特色ある事例になりました。

詳細は報告にあるとおりですが、「願照寺本堂内陣壁貼付絵」は貼付けであることから弊所の技術と経験を発揮した案件です。また、「守綱寺本堂襖絵」12面は3年がかりの修理になりました。

本学古典美術研究の起点とも言うべき模写事業も困難な作業を高度な技術と経験で克服して国宝「黄不動」復元模写の完成を見ることができました。

一連の事業、研究の成果を社会に還元し、地域をネットワーク化する活動も拡がりを見せた2年間でした。学会での発表をはじめとして「災害と文化財」をテーマとした連続講座、リカレント講座を行いました。

今後の課題として調査部門の充実と日本画、書跡分野以外への修復対応があります。

文化財修復、あるいは文化資源の再生、活用に関わる時、答えはひとつとは限りません。様々な条件や要求があり、どのような方針を立てるか、どのように技術を用いるかは常に関係者との議論と適切な情報提供で見出してゆく必要があります。専門家だけで判断出来ることではなく、またすべきでもないのが文化財保存です。

そのためにも所員、研究員おのおのが研鑽を積み、知識と技術そして判断力を磨いて事業に当たることを心に銘じ、弊所も人材育成にも努めてゆく所存です。

今後とも弊所の活動に対し特段のご支援、ご指導を賜りますようお願い申し上げます。

2021年 3月

澳门永利会平台文化財保存修復研究所所長
北田 克己